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第270話

クリスマス当日、学園の大ホールはかつてない程の煌びやかな輝きを放つパーティールームへと変貌を遂げていた。 生徒会役員総出でタキシードに身を包み、影の仕事へ徹するのだが、その飛躍的忙しさの他に綾人は門倉家次男、咲也の嫌がらせにほとほと困らされていた。 「おい!ノロマ!あそこのテーブル飲み物切れてるぞ!」 先輩である綾人へアレコレ支持してはやたら偉そうな咲也に文句を言いたい所だが、要らぬ波風を立てたくなくて綾人は駒鳥の如くあちこち会場を走っては一生懸命働いた。 ただ問題は、一つの仕事をこなすごとに周りの生徒達から体を不必要に触られてセクハラを受け、それが嫌で門倉の側へ行くと咲也に罵倒され、尚且つ陰湿な虐めで足を引っ掛けられて転ばされたり、頭からシャンパンを被させられたりと悲惨な目に遭っていた。 「・・・・そろそろ、僕もキレていいかな」 先ほど、顔面へ生クリームたっぷりのケーキをぶつけられた綾人はざくろが差し出してくれたハンカチにて汚れを拭い、怒りに打ち震えながら呟いた。 「咲也!お前、白木に当たり過ぎだぞ!」 別件の用事にて会場を離れている門倉がいない為、見兼ねた九流が注意をするが、兄至上主義の咲也は誰の言葉も聞く耳持たず、フラリとその場を立ち去った。 咲也が離れていき、げんなりする綾人は生クリームで顔や体がベタつくとトイレへ向かった。 「綾?」 顔を洗面台にて洗って綺麗に身支度を整え直すと、会場へ戻る途中門倉に呼び止められる。 「疲れた?」 元気の無ない綾人に門倉がよしよしと頭を撫でながら顔を覗き込んでくる。 お前の弟のせいだ! と、怒鳴ってやりたいが綾人はグッと堪えて口を噤んだ。 なんだかんだと言っても血縁者だ。悪口を言われていい気になる訳ない。 身内がいない綾人だからこそ、この辺のことは細心の注意を払っていた。 「・・・・大丈夫です。もう直ぐ一般客の来場ですよね。そっちの手伝いへ行ってきます」 門倉の自分に触れてくる手をやんわり避けながら綾人は学園の校門前へと足を向けた。 トボトボと気の落ちた足取りの綾人を見つめ、門倉は腕を組んでクスリと笑った。

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