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第272話

「こちら入場許可証になります。帰りの際は必ずお返しください」 学園前の校門にてずらりと並ぶ生徒の来賓者面々に綾人はラミネート加工された入場許可証を差し出す。 身元が確認終了後、来賓客は門をくぐる事が出来き、地味に責任重大であるこの受付業務を綾人は笑顔で手伝っていた。 見た目も反応も可愛いことから来賓客から好印象の綾人は難なく仕事をこなしていく。 「白木 綾人・・・?」 訝しむような声にて名を呼ばれ、振り返るとそこには品の良いスーツを着た威厳を感じさせる夫婦が立っていた。 「・・・・こんにちは」 知り合いなのだろうか、記憶にないこの二人に綾人は目を瞬かせつつも礼儀として挨拶をする。 その時、旦那の影にて少し見えにくかった妻と取れる女が前へと出てきた。 紅茶色の髪と瞳を持ち、美しいとしか形容できない容姿の彼女はあの門倉の母親と一発で思わせるもので、綾人は目を見開き息を呑んだ。 「この子が優一の・・・?」 二重の大きな瞳を向け、眉間に眉を寄せて綾人を確認するように目を向ける女に綾人は頭を下げて挨拶をした。 「は、はじめまして!いつも門倉先輩にはお世話になっております。ありがとうございます」 無反応に対して綾人はそっと頭を上げて二人を見ると、門倉の両親から蔑むような視線を向けられていた。 母親は忌々しげに綾人を見据え、嫌悪の篭る声色にて牽制をかけてくる。 「これ以上、優一へ近寄らないで頂戴。あの子は大切な門倉家の跡取りなの。一時の遊びで人生を棒には振らせれないのよ。お金が欲しいのなら要求金額を提示して頂戴」 冷ややかな声で告げられ、綾人は一体何を言われているのか分からなくなる。 頭の中を真っ白にして惚けていると、彼女は小さく舌打ちをした。 「頭の悪い子ね。貴方が邪魔だと言ってるのよ!あの子にもう将来の伴侶がいます。貴方如き比べようもないぐらい良識を弁えた令嬢なのよ。高校生活の戯言と思っていたけど、図に乗り過ぎです。女ならまだしも、男の分際で気色の悪い!分を弁えなさい!!今すぐにでも優一とは縁を切って!」 包み隠さぬ悪意と嫌悪、そして息子を守ろうと邪魔な自分を排除しようとする厳しい言葉の数々に綾人は金槌か何かで頭を思い切り殴られたようなショックを受けた。 好きと告げ、その気持ちに応えてくれる門倉に綾人自身、内心淡い期待を持っていたのかもしれない。 門倉がこの学園を卒業しても、もしかしたらと・・・ だけど、それはやはり無謀な夢とこの場にて現実を突き付けられた。 「不愉快な思いをさせていたのなら申し訳ありません。先輩とはちゃんと線引きしたお付き合いをすると約束します」 蜂蜜色の瞳を伏せて、小さな声で告げると綾人はどうかもう暫く、門倉との関係を続けさせて欲しいと深く頭を下げた。

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