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番外編・第8話
「は!?」
まさかの自分の誕生日を忘れている綾人に今度は門倉が素っ頓狂な声を上げて固まった。
それに気付いた綾人はにぱっと笑って門倉に告げる。
「あ!誕生日、何にもしなくていいですよ!プレゼントもケーキもいらないんで!っていうか、門倉先輩よく僕の誕生日知ってましたね!24日だったっけ?」
あははと笑って自身の誕生日を思い出す綾人は本気で祝ってもらう気がないらしく門倉は唖然とした。
「もしかして誕生日は祝わない主義とか?」
「別にそういう訳じゃないけど、別に祝う必要性もなくないです?歳とるだけだし」
あっけらかんとした返答に門倉はかなり面食らった。
子供っぽくて精神年齢が幼い綾人ならば誕生日会でもしたいとでも言いそうなものが、まさかの達観した大人並みの反応にて言葉を失う。
困惑気味の自分に綾人は気を使うように付け足した。
「両親が生きてた時はしてもらってたけど、それ以降は誕生日とか何もしてこなかったから。いつも気が付けば歳をとるだけで、僕にとってはただの普通の日なんです。だから、本当に無視して下さい」
笑ってケーキを食べる手を再開させる綾人に門倉が疑問を口にした。
「ご両親がなくなっても祝いたいって人、綾になら沢山いただろう?祝ってもらわなかったの?」
「んー。なかったなぁ〜。僕、虐められっ子だったし、親戚からも嫌われてたから。あ!速水先生がそういえば電話くれてたっけ・・・」
それを機に毎年自分の誕生日を思い出すのだと綾人はどうでもよさそうに言った。
心から誕生日に関心がなさそうな綾人に門倉の胸が痛む。
綾人の性格上、自身の誕生日を本気で忘れる程の潔さを身に付けるにはかなりの傷を負うようにも感じられたからだ。
願わくば、その傷を癒してやりたいと思った。
自分の誕生日が来るのが待ち遠しいと喜ぶほど無邪気な笑顔を見せて欲しい。
「綾。今年は誕生日、俺にお祝いさせて」
小さく頼りない背中を後ろから抱き締めると、縋るように門倉は綾人へ懇願した。
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