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番外編・第10話

「綾ちゃん、ちょっと買い物いい?」 「どうぞ」 デパートのメンズ館へ立ち寄る門倉は好きなブランドの店へ入ると服を手に取った。 「綾ちゃんに似合いそうだ」 淡い水色のTシャツを掲げる門倉に綾人は首を横へ振った。 「僕なら服はいりませんよ。前に買ったんで」 だから、自分の用事を早く済ませて下さいと綾人は視線を他所へと向けた。 本当に衣類には興味がなさそうな事から門倉は雑貨が売られている階へと移動した。 「このティーセットどう思う?」 色鮮やかな一流ブランドのティーセットを指差す門倉に綾人は綺麗ですねと微笑んだ。 「こういうのでお茶するのもいいよね」 「そうですね。門倉先輩はお客さん多いですもんね。僕は部屋には人呼ばないし必要ないけど」 なかなか良さそうな反応に喜んだとたん、バッサリと切り捨てられた言葉に門倉は残念だと心の中で溜息を漏らした。 「先輩、少しあっち見ていいですか?」 興味があるものを見つけたのか、綾人は寝具が売られているコーナーを指差した。 門倉はよし来た!と、綾人と寝具コーナーへ向かうとアニマル型の抱き枕がいくつも積み上げられた一角に着く。 「可愛い!それに、これ冷たい素材で出来てる〜」 夏仕様の造りの抱き枕は今流行りのひんやりとした特別な素材の生地のものだった。 愛らしい青のイルカの形をした抱き枕を抱き締めた綾人は嬉しそうに笑う。 「これ、気持ちいい!買おうかな」 ムギュっの抱き締めては離したくないと柔らかくひんやりした感触に綾人は酔いしれた。 だが、値札を見て断念する。 数万円するそれは高過ぎると残念そうにイルカを手放す。 「もう少し手頃な金額だったらな〜・・・。モールとかだったら置いてるかな」 欲しいと、イルカを見つめる綾人に門倉はコレをプレゼントしようと口元を笑みにした。 「予算オーバーなら少し考えたら?荷物にもなるし買うにしても帰りにしなよ。ね?」 商品を遠ざける様にして門倉はイルカを綾人から取り上げるとその場を足早に去っていった。 狙いが絞れた事に満足した門倉はそのままデパートの最上階のレストラン街へ向かった。 「和洋中、どれがいい?綾の好きな物でいいよ。お肉?魚?」 「ん〜っとね・・・」 デパートのレストラン街で夜という事もあり、なかなか雰囲気のあるお店ばかりで綾人は足踏みした。 それに気付いた門倉が安心させるように頭を撫でる。 「何処を選んでも個室を用意させるから大丈夫だよ。何が食べたいか言って」 優しい言動に綾人はそれならと台湾料理の専門店を指差した。 「この前、小籠包をテレビで見たから食べてみたいな」 ミーハーで恥ずかしいと笑う綾人の手を引くと、門倉は台湾料理専門店へと足を向けた。

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