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番外編・第11話
「美味し〜!肉汁が凄いですね!!」
綾人は熱い熱いと言いながらも数種類の小籠包を沢山平らげていった。その姿に門倉は安堵する。
夏も本番となり、気温は日々高く、綾人の食欲が下がっていたからだ。
細い体が一段と細くなりつつあるこの夏、門倉はどうしたものかと悩んでいた。
「やっぱり、買って帰ろうかな〜」
美味しいものを食べて上機嫌なのか、綾人がニコニコしながら言う。
「何を?」
「抱き枕〜」
先程、見たイルカの抱き枕を言っているのか綾人は奮発しようかなと笑った。
「・・・今日は荷物になるしまた別の日にすれば?」
自分がプレゼントしようと思っていた手前、購入されると困る門倉が阻止しようと試みた。
が、綾人の気持ちはブレなかった。
「発送にするから別に荷物にならないよ。大丈夫」
ふふふっと何処までも嬉しそうな綾人に優一はどうにか抱き枕から意識を反らすことは出来ないかと思案した。
「しつこいな!!買うって言ってるでしょう⁉︎」
自分の買い物に今日はやたらと絡んでくる門倉に綾人はイライラした。
気に入った抱き枕に何故か門倉がとても否定的で不愉快になる。
段々と意地も出てきた綾人は何が何でも買うと想いを募らせた。
イルカを抱いてレジに向かおうとする綾人に門倉が溜息を吐いて観念した。
「それ、俺に買わせて」
抱きしめるイルカの尻尾を掴まれ、綾人が眉間に皺を寄せる。
「は?なんで?」
綾人は無意味なプレゼントを嫌っていた。
それはこの容姿によって沢山の好意を受ける中、いつもむやみやたらと貢ぎ物をしてくる輩の期待や下心が怖いからだった。
ストーカーに遭うこともしばしばで、人からはちゃんとした理由がない限りモノを貰わないように心掛けていた。
そんな綾人の習慣を知っている門倉は仕方ないとタネ明かしをした。
「誕生日プレゼントとして俺から贈らせて」
ヒョイっと抱き枕を奪い取られた綾人は一瞬、何を言われているのか分からなかったが、先週も揉めたこの誕生日の話題に直ぐに頭の中が切り替わった。
「うっざ・・・。僕、そういうの止めてって言ったよね?」
怒鳴るでもなく静かに告げる綾人に門倉は驚きに目を見開く。
「それ、もういらない。プレゼントされても受け取らないから。・・・帰りましょう」
一気にテンションを下げて踵を返し、寮へ帰ると歩き始めた綾人に門倉は抱き枕を急いで元あった場所へと置くと、後を追いかけた。
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