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番外編・第12話
「綾!待って!!」
タクシーを降り、サクサクと寮の中へと帰って行く綾人の肩を門倉は掴んだ。
バツが悪そうに言葉に困っていると綾人は振り返りざま不機嫌に言った。
「そんなに焦らなくても約束は守ります。週末だから・・・」
部屋へ行けばいいのだろう。と、睨みつけてくる綾人に門倉は額を押さえて息を吐く。
「悪かったよ。そこまで嫌がるとは思わなかったんだ・・・。俺の好意だったんだけど、そんなに嫌ならやめるよ。だから、機嫌を直して?」
本当はちゃんと誕生日を祝ってやりたい。
だけど、それがそんなに重荷ならと、門倉は断念した。
そっと躊躇いがちに細い手首を掴んで引き寄せると、納得したのか綾人は抵抗も見せず、そのまま抱き締めさせてくれた。
「最後にお願いなんだけど、そこまで嫌がる理由教えてくれないか?」
それさえ分かればもうしつこくしないと告げると、綾人は門倉の胸の中で顔を伏せて答えた。
「・・・・怖くなるから」
「え?」
「特別な想い出は怖い・・・。いい出来事は次ぎも期待するでしょう?だから・・・」
「だから何?期待すればいいだろ?来年だってお祝いしよう?」
「・・・・・」
「綾?」
黙る綾人に門倉が根気強く言葉を促すと、顔を上げた綾人は困ったように笑った。
「そうなると、再来年がより辛くなる」
再来年・・・
言われて門倉はハッとなった。
再来年の春、自分はこの学園を卒業している。
綾人との契約はその時点で切れてしまい、「無」になるのだ。
「尽きる良い思い出はいらない。また忘れるのに苦労するもん」
ふふっと笑う綾人に門倉は胸の奥が締め付けられた。
両親から受けていた沢山の愛情や思い出も綾人はこうして消し去ってきたのだろうか。
一人になって、親戚からは蔑まれ、自身のことに段々と無頓着になっていた。
いや、「特別」を作ることに恐怖を抱いているようだった。
だから、それら全ての「特別」を遠ざけて忘れる努力をしてきたのだと門倉は知ってしまった。
そんな悲しい感情を消し去ってやりたい。
だけど、自分にそれが果たして出来るのかが不安で門倉もまた口を閉ざした。
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