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番外編・第14話

「・・・・・え?」 まさかの来訪者に加えての誕生日を祝う台詞に綾人は目を見開いて固まった。 「あ!これ、門倉からな。喧嘩でもしたのか?元気もなかったし、反省してたようだから許してやってくれよ」 グイッとケーキを手渡され、思わず綾人は受け取ってしまった。 九流は両手が空くと、脇に抱えていた大きな包みを玄関の中へと立て掛けた。 「これもあいつから。プレゼントだろ。良かったな」 わしゃわしゃと頭を犬のように撫でられて綾人はボー然とする。 「せっかくの誕生日だし、変な意地張らずに仲直りして盛大に祝ってもらえよ」 苦笑混じりに微笑まれ、綾人はハッと我に返ってケーキを九流へと押し返した。 「も、貰えません!!」 「何?まだ怒ってんのか?」 「いえ!喧嘩とかしてませんから!!」 慌てた様子の綾人に九流が首を傾げる。 「困るんです・・・」 上目遣いにて本当に困ったように言ってくる綾人に九流は優しい笑顔を見せた。 「何に困ってんのか知らねーけど、今日が本当にお前の誕生日なら小さな事は気にせず、一秒でも楽しんで幸せと喜びに浸るべきだと思うけど?」 あのクールな九流から発せられたとは思えない程の物凄いポジティブな発言に綾人は驚いた。 が、次にそれならばとそのプラス思考を覆す自分の考えを伝えてみる。 「いい思い出を作ると、次が虚しくなります。そう思いませんか?」 不安気に揺れる綾人の瞳とネガティヴな発言に九流は意外だなと笑った。 「お前、ざくろに似てるな!そのマイナス思考、疲れないか?」 恋人の事を引き合いに出しては大笑いする九流に綾人はムッとしながら言い返した。 「たかが誕生日ってだけで舞い上がって大きな喜びと幸せに浸っても次に繋がる何かが無ければ無意味でしょ?来年、再来年ってその幸せや喜びが消えた時、寂しさと虚しさに駆られるのは目に見えてるじゃないですか!そんな辛さ僕はいりません」 眉を寄せ、悲しそうな表情を浮かべる綾人に九流は笑う事をやめた。そして、宥めるように己の意見を述べた。 「言いたい事は分からなくもないな・・・。俺も人生で幸せの時期を今迎えてるから、結構ビビってる事もあるし」 口元に手を当て、宙へ視線を向けてはボヤく九流だったが、何を思ったのかフッと微笑むと黒い瞳を綾人へと戻して言った。 「でもさ、いい思い出がない事の方が虚しいと思わないか?」 肩を竦めて聞いてくる九流のその言葉に綾人はとてつもない衝撃を受けた。 「次を期待する事は悪い事じゃねーし、いい思い出を避ける理由にはならないと思うけど。むしろ、辛い事や悲しい事があった時に楽しい事や嬉しかった事を思い出して活力にする方がいいと思う」 目からウロコ的な言葉の連続に綾人は目を瞬かせた。 まだ思う事はありそうではあったが、九流はそんな綾人の背中を押してやる。 「ほら!門倉のとこへ行けよ。滅茶苦茶我儘言って甘えてやれ」 それが誕生日の主役の特権だ。と、言い切る九流に綾人は魔法にでも掛かったかのように足を門倉の元へと走らせた。

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