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番外編・第15話
綾人は九流から受け取った大きなホールケーキを両手に持ったまま門倉の部屋の前まで来た。しかし、あれだけ祝って欲しくないと怒鳴りつけては嫌な態度を繰り返していた為に今更、自分から祝って欲しいだなんて都合の良いことは言えないと足踏みする。
九流に乗せられてノコノコやっては来たが、やっぱり・・・っと踵を返した途端、外出していた門倉が帰宅したようでバッタり鉢合わせとなった。
「綾!?」
「か、門倉先輩っ!!」
お互い、驚く様子だったのだが手の中のケーキに門倉が焦ったように先に口を開いた。
「それ、ごめん!猛の奴だな!!」
しまったと、綾人からケーキを受け取り、あれ程止めろと言われていた行いをしようとしていた事がバレたと門倉は青ざめた。
「その・・・、これは・・・・」
上手い言い訳が見つからなくて門倉はジッと見つめてくる綾人にダラダラ冷や汗を流した。
「・・・・・ごめん」
潔く頭を下げ、門倉が謝る姿を見て綾人は胸の奥がズキズキと傷んだ。
門倉は綾人の顔を見る事なくケーキを急いで処分しようと部屋の扉を開いたとき、綾人は咄嗟に門倉の服の裾を握り締めた。
「え!?」
振り返り、綾人と目が合った門倉の紅茶色の瞳が揺れる。
その瞳を見た綾人はゴクリと喉を鳴らすと、震える声を隠すように少し声を大きく張った。
「し、仕方ないから祝わせてあげてもいいですよ!」
プイッと、首を横へ背け不遜な態度で言い放つ綾人に門倉が固まった。
「・・・・・」
「・・・・・」
互いの間に沈黙が流れ、可愛くない態度をまた取ってしまったと唇を噛み締めた綾人は顔を赤くして回れ右をした。
「や、やっぱ、やめた!さよなら!!」
自惚れるなと言われた気がして、惨めさが込み上がり足早にその場を去ろうとした瞬間、凄い力で体を抱きすくめられ、次に事態を把握した時は部屋の中へと引き摺り込まれたと分かった時だった。
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