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第7話:合格

「いやあ、合格だよ、コンちゃん」  いつもの軽い調子で、柏木がコンタの名前を口にする。それは、プレイの終わりを意味していた。  自分が果てただけで終わると思っていなかったコンタは、拍子抜けして「は?」と勢い良く立ち上がった。 「あれ、いつものコンちゃんだ。すごいなー。もう『佐々原』の顔がわかんなくなっちゃった」  こりゃあもう超能力みたいなもんだなー、なんておしぼりで手を拭いながら呑気なことを言う柏木に、コンタはもう一度「は?」と声を出した。 「意味わかんねぇんだけど! なんなの、妙に凝った設定持ってくるわ、俺だけイかせて終わらせるわ!」 「コンちゃん」  苛として怒鳴るコンタに真剣な顔を向けた柏木だったが、すぐにへらりと表情を崩して、それから意味ありげにニヤと口角を上げた。 「合格したコンちゃんに、ヒミツの倉庫部屋を見せてあげよう」 *** 「……なんっ、だ……これ……」  初めて足を踏み入れた十五畳程もある横に広い倉庫部屋は、倉庫と言うよりむしろ大企業の社長室というような内装だった。立派なデスク、革張りのデスクチェア、ソファセットとローテーブルは貴賓室にでもありそうな高級感のある見た目をしている。  しかし異質なのは、その広い部屋の半分以上を背の高いスチールラックが占めているということで、更にそのラックには、びっしりとファイルボックスが並んでいた。 「びっくりした?」  部屋の雰囲気にマッチしない医者姿の軽薄な男が、軽薄に笑む。 「何がなんだかわっかんねぇ……」 「あはは、だよねぇ。ごめんごめん」  別段ごめんとは思っていなさそうな言い草に腹が立ったが、今はこの状況を説明してもらうことが先である。コンタはモヤモヤをぐっと堪えて柏木の言葉を待った。 「実はねぇ、風俗の店長は世を忍ぶ仮の姿でさ」 「……は?」  ここへ来てまた変な冗談か。  次にふざけたら一発殴ってやろうと、コンタは拳を握り締めた。 「本業は、スパイなのよ」 「……ッ!」 「わー! 待って待って! ホントだから!」  無言で殴りにかかってきたコンタを、既のところで制して両腕を抑える。 「何だよスパイって! ナメてんのか!」 「ナメてない、ナメてない!」  ぐぐぐ、と拮抗しながら、「聞いて聞いて」と落ち着くように促すと、棚から書類の一部を取り出してコンタに差し出した。  それをひったくるようにして受け取って、ぶつぶつ文句を言いながら視線を落とす。 「……これ、スパイって、もしかして……」  顔を上げたコンタが、見開いた瞳を柏木に向ける。 『NCC電機株式会社新型チップセット開発データについて』と書かれた書類には、依頼者としてライバル会社の社名が記載されていた。

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