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第1話の2
地元っ子の自分とは違い、上方から売られ売られてこの地の果てまでやってきたこの弟分に、
双蘭は常日頃から一目置いていた。
芸事も達者で座持ちもよく、美しいこの弟分より自分が稼げているのは、
いくら枕の務めが多いとはいえ何かの間違いだと。
そうまで思っている、心を許した弟分なのに、こいつの他国の訛りが俺を隔てている、
そんな嫌な考えが、双蘭の頭の片隅をよぎった。
しかし、母恋はそんなことはおかまいなしに、かすかな声で囁き続けた。
「…うちら、この店から出られるかもしれん。
お江戸が東京になったとかで、わやわやで、店もやめるとかやめないとか。」
双蘭には何のことやらわからなかった。
ただ、母恋の顔を見つめるばかりだった。
「もうこないな商売せんでええんよ。
陰間、とか男娼、じゃないんよ。男のなり、できるんよ…」
喜ぶ母恋に、双蘭は一言も返すことができなかった…
双蘭と母恋のいる陰間屋「ぎやまん楼」は、
もともと親方の庄左エ門が、江戸からやってきて始めた遊女屋のおまけだった。
箱館はすでに妓楼の数が多く、親方の「松葉楼」は他の楼の後追いになっていた。
それで、親方は、江戸の女にもまして気が強い地元の商家の女将や、
一部の好き者も客に出来るようにと、
「ぎやまん楼」も営むことにしたのだった。
本当はそのうち異人相手まで発展できるようにとも思っていたのだが、
そちらの方はさっぱりだった。
そのうち、遠く離れた江戸の不穏な動きが伝えられるようになり、
お上が天子さまに大政を奉還したとかで、
箱館まで世の中が変わったような変わらないようなという、
どうにもわからない様子になってしまった。
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