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第1話の7
「大げさだ。ちょっと寝たりないだけなのに。」
と言いながらも、やはり休める所が欲しかったのか土方も立ち上がり、
熊八と双蘭に導かれながら母恋の部屋へと進み始めた。
その時なぜか双蘭の視界には母恋の心配げな表情が飛び込んできた。
いつもと違って不自然に思えてならなかった。
いつもなら残った母恋が落ち着いた表情でその場を収めていてくれるのに…
廊下を少し進み、母恋の部屋に敷き延べられたなまめかしい夜具が目に入った時は、
さすがの土方も驚いた表情を浮かべたが、
双蘭が掛け夜具をめくろうとすると、さっきから苦虫を噛んでいるような小姓が、
「副長には触らないでいただきたい。ここは私が警護致すゆえ。」
双蘭はひたすら言葉を失い、熊八は笑いをこらえ、
心配して追ってきたらしい嘉吉と、土方が大笑いをした。
「市村、ここでそんな無粋なことを言うな。」
「副長…」
市村、と呼ばれたその小姓は真っ赤になって怒っているようだったが、
土方はそれをからかうように夜具に滑り込み、
「市村、俺も似たようなものかもしれないぞ。
京ではどれほどの女を羽化登仙に引きずり込んだかわからないし…」
「それとこれとではお話が違います。」
すると土方はいたずらっぽい目で双蘭をちらりと見て、
「その昔、江戸にいたころは男だってわからんぞ。」
「副長!」
「お奉行様、市村様がかわいそうだ。そのくらいにしてさしあげてくださいまし。」
嘉吉がそう言ってなだめた時、どうして双蘭はあんな事を言ってしまったのか。
「新選組では、男色はご法度ではなかったのですか?」
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