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第2話の1

 あの日以来、母恋の様子がどうもおかしい。 店で一、二を争う売れっ子同士ということもあり、 あんなに仲が良かったのに… 客の無い日の夜は陰間部屋で雑魚寝となり、 自然と仲のいい者同士が隣り合うことになるのだが… 売れっ子同士、珍しくたまに隣り合っても 前のような軽口が母恋から出ることはなく、 どちらかといえば口の重い双蘭は困ってしまった。  そんな時に、案の定、御用金に苦しむ親方と熊八から双蘭は 「土方様をお呼びすることはできないのか」とせっつかれたのだ。  確かにあれからひと月ほど経つとはいえ、 忙しい土方がそう簡単に来るはずもない。 「裏を返していただくくらいできるだろうよ。」 「嘉吉さんにお願いしやしょう。 番頭さんにいつものように文を書いてもらって。」 しかし、双蘭はいつものようにおとなしく二人の言葉に従う気にはなれなかった。 時代遅れの陰間屋のことゆえ、土方のような奉行級の侍を客に持ったためしはなかったが、 そのことに臆したわけではない。 双蘭自身、何とも説明のつかない思いのためだった。 「なんだい、お前、すぐに土方様が追われるのを見越してそんな意地を張るのかい?」 「…そんなんじゃありません。」 「お前が嫌なら母恋でもいいんだよ。」 双蘭はあっけに取られて親方の顔を見るばかりだった。 部屋を貸しただけの母恋を使ってまで、 土方を来させたいというのか。

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