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第2話の2

「土方様がごひいきともなれば評判にもなるし箔もつくだろう。 嘉吉さんがもっと他所でしゃべってくれればいいのにねえ。」 親方の剣幕では本当に母恋の客にされてしまいかねない。 そのことも自分がどうしてものすごく嫌なのかわからないまま、 双蘭は親方に詫びた。 「親方、すみません。あまりにお偉い方なので少し怖くなって… でも、文、頼んでみます。 番頭さんにすぐ書いてもらいます。」 ここの抱え子達はみな読み書きがほとんど出来ない。 そのため、客への文は番頭に代筆してもらうのだが、 簡単な客は番頭にすべて任せ、 大事な客の時は陰間本人も金剛までが知恵を絞る。 だから土方は大事な客で何としても呼び寄せると双蘭は親方に言い放ったことになるわけだが… 「それでいいんだよ。わかったね。」 親方から解放された双蘭はすぐに熊八と、 帳場の番頭を囲んだ。 五十がらみの番頭も首をひねる。 「ありゃ百戦練磨だろうし、どう攻めたものか…」 日頃目ざとい熊八も同じく手をこまねいているようだった。  ようやく番頭が、 「仕方ない。田舎の純朴な抱え子らしさでいくか。 案外そういう方が珍しくて喜ばれるかも知れん。」 「そりゃあいいや、ね、太夫? 」 でも胸には何かまだわだかまりがある。  そこに、すっ、とやってきたのは母恋と母恋の金剛の吉次だった。 「兄さん、そんなにお嫌でしたら私が代わります。土方様の事。」  双蘭ばかりか熊八も番頭もあっけに取られるばかりだった。

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