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第2話の3

「もともとお泊りやしたのも私の部屋ですし、 お褒め下さった夜具もうちのものですし。」 口の重い双蘭が何も言い返せずにいるうちに、母恋は言い募る。 ようやく熊八が、 「いや、双蘭の太夫がだったからあんなにおくつろぎいただけた、 ってことですよ。」 「何にしても兄さんは乗り気にはお見受けしまへん。 ですよってに、日頃のよしみ、部屋のご縁で私が替わります、と。」 客の取り合いなど双蘭は初めてのことで、 ましてや仲のいい母恋とこのようなことになろうとは思いもよらないことで、 ますますもって言葉が出ない。 しかしその一方で、何としても土方を渡したくないという気持ちがかたまっていくのも事実だった。 それも欲得づくなどではなく。 その時双蘭にはひらめいた。 裏を返すと言われたからと言えばよいと。 しかしそれより早く熊八が、 「母恋の太夫、そこまで土方様にこだわりなさるのはどうしてなんですかい?  まさか惚れたとか? 」 一瞬、母恋の顔が青ざめたように見えた。 図星かもしれないと双蘭は思い、 口を開かなくて良かったと思った。 が、母恋はすぐに、 「まさか。京の辺りの話をした時に盛り上がったからや。 兄さんといる時より、土方様は口数も多くていらっしゃった。」 「私は…」 母恋を黙らせたくて、双蘭は割って入った。 「必ず裏を返す、と土方様に言われたから。 番頭さん、そのあたりも考えに入れて下書きして下さい。」 「それを早く言いなよ。ええと、恋しい恋しい土方様…」 双蘭の勝ちだった。

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