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第2話の8
なまめかしい色の夜具が敷き延べられた双蘭の部屋に通された土方は、
並べられた形ばかりの酒肴の前に腰を下ろすなり、
あたりをしげしげと見渡した。
「何か…」
「…いやあ…」
土方が珍しく言葉をためらっている。
そしてあらぬ方に目をむけたまま、
「…ここも北海道(えぞち)なんだと思うと…」
江戸や京の色町のことを思い出しているのかと双蘭は妙な気分になりかけたが、
そこで土方は双蘭に目を向け、
「…こんな暖かな極楽に来られるとはな…」
その言葉に双蘭は言葉を失う。
この人は地獄を見てきたお人なのだ…
ならばこの人の好きにさせたい、
せめて自分が少しでもこの人の慰めになれば…
そう思い、この座敷での酒もそこそこだというのに、
さりげなく誘うように双蘭は夜具に目をやった。すると土方は、
「今日は他に客はいるのか? 」
と優しく尋ねてくる。
他の客のところを回るのかとは、さすがに慣れた人の台詞だな、とも思い、
当たり前だが土方との関係がはっきりしたようで、
ちょっと今の双蘭には寂しい気もした。でも幸い今日は他には客はいないので、
少し安心して答えた。
「いいえ…」
「いや、他の部屋を回らなくてはいけないなら気にするなということだ。」
「いえ、本当に今夜はいないんで…」
それを聞くなり土方の目はいたずらっぽく輝き、
笑顔で軍服の上着を脱ぎ始めながら、
「なら今夜はお前も休め。」
「は? 」
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