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第2話の9
双蘭が驚いているうちに、土方は夜具に滑り込んでしまい、
「俺も帳場には言わない。お前も何か言われたら、
俺が酔ってたのですぐ済んだとでも言っておけ。」
そう言って双蘭には背を向けてしまった。
「そんな…」
しかし、双蘭は次の言葉をのみ込んだ。
仕事もしないでお金をいただくわけには…と。
それは双蘭が今一番言いたくない言葉だった。
それでやむなく、
「…男が駄目なら駄目とおっしゃって下さればよかったのに…」
「あんな文もらって、来ないわけにはいかないだろう。」
それは嘘だと双蘭は思う。
異人もいるほど栄えた箱館とはいえ、
これまで土方が浮名を流してきたらしい京や江戸の女たちの文や手管に比べれば、
双蘭の番頭に書いてもらった文などどれほどのものか…
「いいから休め。お前だってそう休めない体だろう? 」
そして、確かに副長の部屋よりはいいようだ、
と言うと、それきり土方は黙ってしまった。
双蘭は仕方なく、とりあえず受け取った土方の軍服の上着を畳んだが…
それだけで、喜びをふと感じたが…
次の瞬間には、自分のような者が大事な軍服に触れてよかったのか、
と後悔もした。
が、まだ眠ってはいないらしい土方が何も言わないのだし、
何より土方から受け取ったのだから、良しとすることにした。
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