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第2話の10
そして…夜具はひとつしかない。
さらには他のお客の相手以外に、
客を置いたままこの部屋を出ることなど許されるわけもない。
幸いなことに、こころなしか、土方の体は左に寄っているので、ならば…
と双蘭は帯を解き、土方の横に体を滑り込ませると…
勇気を振り絞って、土方の背にしがみつくようにして左手をまわした…
拒まれはしなかった。が、
「いいから、気なんか遣うな。」
「で、でも、少しでも仕事しなきゃ…」
…仕事、と言ってどきどきしていた。
土方のぬくもり、匂いに胸をしめつけられながら、
双蘭は、自分は嘘を言っていると思ったが…
「律儀な奴だな。」
笑いをこらえたような声で土方はそう言ってくれた。
そして、ほらよ、と言って、
振り向いたりはせず、でも双蘭の左手に自分の右手を重ねてくれた…
「これで指一本触れなかったなんて言わせないぜ。」
と言うと、すぐに手を離した。
「じゃあ俺はもう寝るからな。朝になったら起こしてくれ。」
人肌だし、いい匂いはするし極楽だ…
そう言ったきり土方は黙ってしまい、本当に眠りにつく様子だった。
だが双蘭は十分に満足だった。
こうして…生まれて初めて…
恋しいと思った「お方」のそばに、
それもぬくもりを感じながら一夜を過ごせるのだから…
…緊張しながらも、双蘭もいつしかうとうとしていたらしい。
店の朝のさざめきで目が覚めた。
それは土方も同じだったらしく、夜具から出ると双蘭には目もくれず、
上着を身に着け始めた。
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