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第2話の12
双蘭も土方の本心はわからず、何とも答えようがない。
取り繕いようもなく困っていると、熊八が、
「いや、あちらも京やお江戸で百戦錬磨でしょうし…」
それが何とも後味が悪く響き、親方も番頭も一瞬押し黙ってしまった。
「同じ田舎の色子なら、芸の達者な母恋の方が良かったかもしれないね。
もともとは上方の子だし。」
ようやく口を開いた親方の言葉に双蘭は深く傷ついた。
しかしさらに親方は、
「嘉吉さんに伝えてみようか、今度は母恋にお相手させますと…
番頭さん、さっそく嘉吉さんに文を書いておくれ。」
よっぽど双蘭は「お奉行様は男がお嫌なので母恋でも無理」と言いたかったのだが、
それでは昨日の夜がすべて嘘になってしまう。
「…確かに難しいお方でした。お奉行様は。
ですので、何千人と枕を交わした私でもご本心はわかりかねております。」
意地になってそう言った。
それに、昨夜の双蘭の部屋での出来事は土方と双蘭以外、
誰も知らないのだ。
「それなのに、私より客の少ない母恋ではお奉行様の夜伽など、
勤まるはずがございません。」
「へえ、双蘭、ずいぶんと大きく出たもんだねえ。」
「天下の土方様に敵娼(あいかた)と呼ばれたのはこの私なのですし。」
「で? 」
「また番頭さんに文を書いていただいて、嘉吉さんに…」
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