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第2話の14
女郎屋よりも人の口の端に上りにくいこの店の噂がいったいどこから流れたものか…
「役者みたいないい男だっていうけど、どうだった?」
双蘭は少しも土方のことは言いたくなかった。
すべてが大切な思い出だったからだ。
しかし、客の問いに答えないわけにもいかず、
また土方の男ぶりを捻じ曲げて伝えるわけにもいかず、
「ええ、そりゃいい男でいらっしゃいましたよ。」
それだけで言葉は途切れる。若後家はあきれている。
「なあに、もう少しくらい教えてくれたっていいっしょや。」
そこで嫌になった双蘭は、ちらりと夜具に目をやった。
すると若後家は、
「なあに、後は寝てからの祝儀次第かい。」
というなり、いつものように双蘭に挑みかかってきた…
まではよかったのだが、もつれ合う最中に囁かれた。
「…土方様があんたを抱いたように、あたしを抱いて…」
双蘭の手が一瞬止まる。
これで土方と本当にそのようになっていたら、
自分を通してこの客は土方とつながった気になる…
おぞましくてますます嫌になった。
そしてこうも思う。
あのお方の優しさなどみじんも教えてやるものか…
だから激しく、荒々しく、女を押し倒し、着ているものを脱がせ…
「やっぱりこんな感じなんだ…ああ、たまらないべさ…」
女の嬌声が双蘭には余りに虚しく響いた…
もちろん…勤めの後も、双蘭は土方のことなど、
当たり障りのない宴の話くらいしかしなかった。
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