24 / 67
第2話の15
その後の女客も、さらには新しい女客も、
「あの土方に抱かれた陰間」である双蘭を求めて店に来ていた。
そのことを双蘭は黙っていたが、
おしゃべりな客が店の者にでも言ったのだろう。
親方の耳にも入ったらしかった。
「まあ良かった。少しはお客も増えたようだしね。」
松葉楼にばかり行っていて、
久しぶりにぎやまん楼に顔を見せた親方にそう言われた時、
双蘭は、あっ、と思った。
この噂を流すようにしたのは親方だったのではないか…
「それにしても嘉吉さんからは何も言ってこないが…
やっぱりお奉行様の宴会やお泊りはほしいところだねえ。」
あれ以来、母恋とはあたりさわりなく過ごしている。
それも母恋の意地の強さと、
あとは今、親方が土方に推しているのが自分だという自信から、
今まで通り、双蘭を表向きは立てるように接していられるのだろう。
そんな母恋は、このところは昼間になじみの女客がぽつぽつと来るくらいで、
夜は松葉楼の宴会に三味線のために行っていることが多かった。
春になれば江戸あらため東京から、
土方たちの敵の官軍がやってきて戦になるだろうと聞く。
いや、異人が箱館にはいるから、彼らに被害を及ぼさないように、
箱館のまわりでしか戦にならないと言う者もいる。
また西洋式の城…五稜郭に入っているとはいえ、
土方達旧幕府軍は人数も少なく、
降伏は目に見えていると言う者もいる。
ともだちにシェアしよう!