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第2話の16
「お奉行様ったってねえ、春になればどうなっていることやら…」
その日の双蘭の勤めぶりが不満だったらしい、
大店の年増の後家に面と向かって言われたこともある。
「その時はあんたも気をつけな。
罪人の思われ者なんてどうされるかわからないっしょ。」
そう言われて双蘭はあらためて土方の置かれている状況に気付かされた。
自分はいいのだ。どうなろうとも。
しかし反乱軍の主要人物の土方は捕えられたらどうなることか…
新選組として、京では暗躍していたために、
官軍の中には「仲間の仇」と土方を憎んでいる者も多いと聞いたこともある。
土方は捕えられることをよしとはしないだろう。
だとすれば、いざとなれば自刃だろうか…
それならば供をしたいと双蘭は思う。
土方の手にかかりたいと。
新選組の鬼の副長だったお方なのだから、
陰間の一人くらい切るのはわけがなさそうだ。
が、陰間なんて刀がもったいないと切ってはくれないかもしれない。
「太夫…」
客を送り出し、ぼんやりとそんなことを考えていると、
熊八に話しかけられた。
「いえ、大したことではないんですが…
ここんところ、めっきり祝儀が少なくなりやしたねえ…」
意外なところを、そして痛いところを突かれ、
双蘭は一瞬言葉を失う。
そしてようやく、
「戦が近いからだろうさ。
あと、御用金でうちと同じく苦しいんじゃないかい。」
すると熊八は不服そうに、
「そんなもんでしょうかね…」
と言うと、意味ありげな視線を双蘭にくれてから部屋を出て行った。
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