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第2話の17
花代の他に客からもらえる祝儀は、
双蘭にとっても熊八にとっても大切な収入(みいり)だった。
それが少なくなっているということは、双蘭もうすうすわかっていた。
自分でもどうしていいのかわからないのだが、
今までないことに、客のあしらいがどうもうまくいかなくなっていたからである。
これまでなら、客の喜ぶことは何でもやってのけていた。
でも今は…荒々しく客を押し倒して…
その後がどうもいけない。手が止まる。
もともと双蘭は不器用な性質(たち)で、
それがこれまでは「いつまでもこの世界の垢にまみれない清々しさ」などと客に言われ、
喜ばれていた。
それが、この頃では「ちょっと土方様にひっかかりができたと思って手を抜いている」と言われる。
さらにはこの一月は、正月とはいっても賑わうのは女を置いている店ばかりで、
双蘭の店はいつも売り上げが冷え込む。
行事で商家の女あるじ達は忙しいからだ。
二月も冷え込む。
箱館の冬はとても寒く、みな重要な用事以外は出歩かなくなるからだ。
そして三月にようやく店は息を吹き返すのだが…
双蘭は今年の三月が怖い。
土方の身の上が案じられるからだ…
いや、この箱館が戦になったら、
双蘭自身も店もどうなるかわからないわけだが。
そんな時、いつにないことに、客がおらず、抱え子がみないる時に、
店の者全員が親方に呼びつけられ、説教をされた。
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