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第2話の18

「お前達、このままじゃ顎が干上がるよ。 松葉楼の女達よりまだひどいよ、こんなんじゃあ。 売り上げが悪過ぎるんだよ。」 そう言うと双蘭を筆頭に全員をにらみつけ、 「みんなもっとお客に来ておもらい。 ご無沙汰のお客には、帳場に言って文をしたためるなり、 もっとお客の喜ぶことを考えるなりしなきゃ駄目だ。 何なら、近頃はやっていないようだが、 外の待合茶屋にお客を連れ出してもいいんだよ。 もっと頭を使えってんだ。」 そして、 「特に双蘭、母恋…」 と言いかけて、ま、母恋は宴会もあるから困ったね… と親方はひとりごち、 「ま、母恋は昼間でお客様をびっちりにおし。 双蘭も太夫なんだからもっとお客を呼ぶ算段をおし。いいね。」 話が終わり、親方が席を立つと、これは一大事、と帳場はもとより、 少しでも字が書ける金剛達まで立ち上がり文の支度をしようとする。 その中でも番頭は双蘭に声をかけてくれようとしたのだが、 ひょいと母恋に割り込まれた。 「番頭さん、私の方はお奉行様あてですよって。先にしてもらえますか。」 そう言われては番頭も返す言葉がなく、 母恋と吉次に引っ張られていく。 それを忌々しそうに見ている熊八の目に双蘭は気が付き、 こちらも言葉がなかったが、 「太夫、しっかりして下さいよ。癪じゃありませんか。」 熊八に言われるのもわかるが、間遠になった客に文を出すとなれば、 その中にはどうしても男客は避けて通れない。 女客も今の双蘭には厳しいが、男客に触れるのは… 本当に土方を裏切るようでつらい。

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