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第2話の19

「母恋太夫の文が終わったらすぐに番頭さんのところへ行きやしょう。 それまで文の中身を一緒に考えましょうや。」 そう言われ、部屋に戻ろうとしたところで、手代に呼び止められた。 「双蘭太夫、親方がお呼びです。」 言われるまま親方の部屋に行ってみると…笑顔の嘉吉がいた。 まぎれもなく越後屋の手代の嘉吉である。 親方も取り繕ったような顔で、 「嘉吉さんが…」 と言いかけると、嘉吉はしーっと唇に人差し指に指を当てて親方を制し、 立派な文箱を双蘭の前に差し出してきた。 何が何だかわからぬまま、箱を開けると一通の文が… 裏に書かれた差出人の名は「豊玉」。 双蘭が思わず嘉吉の顔を見ると、 「お奉行様の俳号ですよ。お奉行様は俳句をなさるので…」 「お奉行様」の言葉に、驚きのあまり双蘭は文を取り落しそうになった。 が、中が気になり慌てて開くと、 『おれもしごとでいそがしい。ひまができたらあいにいく。 それまではからだをいとえ。』 と、すべて仮名で書いてくれたのは、 双蘭が直に読めるようにとの気遣いに他ならなかった。 あまりの大きな喜びに双蘭が声も出せずにいると嘉吉は、 「遅くなって申し訳ない。何しろ私も多事多用で、 さらにはお奉行様もお忙しくていらっしゃるのでお目通りもできず…」 「いいえ、そんな…もったいのうございます…」 双蘭がやっとのことで礼を述べると、親方は、 「双蘭、それでいつお奉行様はいらっしゃるんだい?」 双蘭は困ってしまった。

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