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第3話の2

「そこを寝物語で聞き出すのが兄さんの腕やありまへんか。」 「双蘭太夫、何なら母恋太夫がお訊きしましょうか。」 金剛の吉次まで割り込んでくる。 まだ土方を狙っていたのかと双蘭はあぜんとする。 すると今度は熊八が、 「馬鹿なことを言うな。こちらの太夫はお忙しいお奉行様から、 ありがたくも文までいただいてるんだ。」 「新選組の局長の近藤とかいうお方は…」 口の減らない母恋は言うに事欠き、そんなことまで口走った。 そして、 「最後は京でさらし首になったそうやありまへんか。」 今さらながら、双蘭はその事実を思い出し、言葉に詰まる。 熊八がくってかかる。 「太夫、何が言いたいんで?」 吉次でさえ、これは駄目だと言わんばかりに顔を背けたその時、 双蘭にはなぜか笑いがこみ上げてきた。 「本当だわ母恋。お前はいったい何が言いたいの?」 双蘭の笑顔には、三人とも驚いていた。 が、母恋は、なおも、 「ですから、ずっと申し上げているように、 私は兄さんに害が及ばぬ様に…」 「それはいいって前も言ったっしょ。 まだ何か言うなら、お前と俺は同じ穴のむじなとかいうことになるんでないの。 それでもいいの?」 図星、というように母恋は黙り込んだ。 らしくもなくうろたえていた。 やはり母恋は母恋なりに土方を慕っているのだろう。 そしてそれは…いや、自分と母恋のさや当ては金剛の二人も含め、 店のためにいいように利用されてきたのかもしれないと双蘭は気付いた。 今は土方が上客だから、親方も土方を避けようとはしなかったのだろう。 しかし、土方が敗軍の将になった途端、 それは「なかったこと」にされてしまうのだ、きっと。

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