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第3話の4

 さっそく文を開いたが、土方への文のことらしいということを目にしただけで舞い上がってしまい、 また、字があまり読めない双蘭にはきちんとした候文はあまりよくわからなかった。 それでいつものように念のため熊八に読み上げてもらったところ、 土方に文を書いてほしいという内容だった。 双蘭が案じた以上に、土方ははりつめた日々を送っているらしい。 それで、何か仕事以外のことで目先を変えた方が良いように見えるので、 ついては双蘭の文が一番良いように思われる…そんな文だった。  土方に文が届けられる…それだけで双蘭はたまらなく嬉しくなり、 熊八の顔を見てしまった。しかし、すぐに現実に引き戻される。 「お奉行様は胆の据わった大将だから心配はないけれど… 下の人達の落ち着かなさったらないだろうねえ…」 ひとり言のように双蘭がつぶやくと、熊八は、 「戦ですからねえ…いずこの戦に限らず、 小者の中には脱走する者も多いと聞きやすよ…」 さもありなん、と双蘭は思う。 命がけの戦なのだから… しかしそんな兵達を束ねる苦労も… つくづく土方の立場の大変さを思い知らされる。 さ、文の中身考えましょうや、と熊八が筆を用意する間、 文を書いたところで土方が来てくれるかどうかはわからない、 というより望みは薄い、と双蘭は自分に言い聞かせた。 その一方で、嘉吉がこのようにしてくれるからには、 土方には双蘭以外に引っ掛かりのあるような女などはいないのだろうとも思えてきて嬉しかった。 が、切れ者と言われる嘉吉が、土方に、他に女をすすめていたり、 これと同じような文をその女に届けさせていたら…とも思うと不安になる。

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