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第3話の7
が、いざ座敷に出て、土方に挨拶をすると、胸が詰まった。
しかし、
「双蘭、待たせてすまなかったな。」
やけに今夜の土方は上機嫌だ。
そして、
「遠慮しないでいい。もっとお前からの文が欲しかった。」
などと言う。嬉しいような気もするが、少し土方らしくないような気がした。
そこへ親方も挨拶にきたところで、
双蘭はこの前以上に土方が祝儀をはずんだらしいことに気付いた。
後から熊八にきいたところによると、
部下が松葉楼に上がったよりもはずまれたので、
親方も喜色満面だったという。
さりげなく、双蘭の身請けも親方は伺いを立てたらしいとも聞き、
双蘭は親方の強欲に呆れるばかりだった。
しかし、土方は明言は避けたものの、
双蘭の旦那を気取っているかのような口ぶりはそこでもあったということで、
双蘭はなんだか妙な気配を今日は感じていた。
宴は、一番若い抱え子がまず踊り、輪西が三味線を弾いた。
どちらもあまりうまくはないので、
双蘭は母恋がどちらかをやればいいのにと思ったが、
見れば母恋は土方にべったりと張り付いている。
そのうち土方は踊りの方にくぎ付け…というより、
母恋を避けたくて目をそらしたようで、
仕方なく母恋は土方の部下に酌を始めていた。
そして今度は輪西が踊るが、これもさほど上手いわけではない。
ただ…これもここが京や江戸ではなく、
さい果ての蝦夷地(えぞち)でのことなのだと土方が思うよすがになればいいなどと…
思っている自分に双蘭は自分でも驚く。
それは土方がこの土地を離れる日がくるのを覚悟しているということではないか…
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