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第3話の10
ようやくのことで、はい、と答えると、
双蘭は土方の横に侍って猪口を持ち上げようとしたが、
手が震えて思うように酌ができない。
「おい、どうした。」
土方も驚いているようだったが、双蘭も何も言えない。
その言いあぐねている姿を見て土方は真顔になり、
「双蘭、どうした? 女でもできてつとめが嫌になったのか?
そういや今日は俺から離れているのが多かったな。」
双蘭は真っ青になった。
見ないうちにずいぶんと色っぽくなったと思ったら…
と土方が言いつのるのに、
そりゃあ陰間風情でも一生懸命あなた様のために磨きましたから…
とでも返したいところだったが、
「そんなんじゃありません!」
「じゃあ何だ?」
再び双蘭は黙るしかなかった。
どうすれば自分の本心が、商売抜きだと伝えられるのか、答えが欲しかった。
「…怖い…」
双蘭の口からようやくもれた言葉はそれだった。
せっかく会えたこの目の前の「恋しいお方」を失うのが怖い、
そういうことだった。
が、土方は違う意味に取ったらしく、残念そうに、
「…これまでは何でもなかったのにな…俺の…これまでのことでも聞いたのか?
まあ、関わるだけでも怖いわな。
でもまあ、ここには刀も持っちゃいねえ。
すぐにたたっ斬ったりはしねえから安心しろ。」
そして土方らしくもなく、
怖いのなんのって女じゃあるまいし、誰でも彼でも斬るわけじゃなし…
とつぶやくのに、双蘭は土方の腕をぐい、
と掴んで土方の顔を見つめるばかりだった。声が出ない。
それで土方は双蘭のただ事ならぬことに気付いたようだったが…
土方が抱いた疑念は彼らしい、というか、双蘭が思いもしないことだった。
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