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第3話の11
土方は取り調べでもするように右手で双蘭の顎をぐっと持ち上げ、
双蘭の顔を穴の開くほど見つめたのだ。
双蘭はどうしていいのかわからなかった。
そして土方は手を放すと、
「誰かに通じているってこともなさそうだな。」
密偵にでも通じていると思われたらしい。
双蘭はそんなことは考えたこともなかったので驚き、
また、それを気にしなければならない土方の身の上が切なく思われた。
「…それなのに双蘭、なんでお前は俺を怖がるんだ?」
双蘭はなんと説明していいのかわからなかった。
土方のことが好きすぎて手が震えてしまう…
そんなことを言っても、商売の口説と思われそうで、つらかった。
手練手管ではなく心の底から惚れているということを、
どうすれば伝えることができるのだろう。
そして、そのことで土方に嫌われてしまうのも怖い。
しかし、このままでは文ばかりで、
とんでもない陰間ということになってしまうだろう。
土方に帰られるのが怖い。それで、どうにか、
「お奉行様のことが心底恋しくて、このように狂っております。」
と言ってみた。そして、想いを伝えて初めて土方の顔を見つめた。
すると…土方は双蘭を凝視したまま珍しく沈黙した。
しかし、次には、売られた喧嘩でも買うように、にやりと笑い、
こう言った。
「双蘭、お前は…本当の意味で、男に抱かれたことなんてないんだろう。」
また困ることを言い出された。
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