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第3話の14

 顔が離れると、土方は笑顔だった。 そして唐突に、 「お前、いくつになる?」 「…」 陰間に歳を尋ねるなんて… いつもなら、野暮ざんしょ、と軽口で答えるのだが、 今の双蘭にはそんな言葉も出ない。 すると土方は、 「お前は見た目通り若いんだろうと思ってさ。」 その優しい声音に、双蘭は正直に、 男を相手にするにしては薹(とう)のたった歳を答えることができた。 「十八です。」 「十八かあ…十八の頃と言えば俺は…」 そう言いかけて、土方は黙った。 双蘭も余計なことは尋ねない。 しかし土方はこう続けた。 「…侍になりたかった。 侍に生まれなかったことを恨んでいたかもしれない…」 「でも、今はお侍様、お奉行様…」 「…そうだな…だからよ…」 そう言って、土方は腹這いになると、 「お前もこのままで諦めるなんてことはするな。 俺だっててめえの腕一本で、才覚で、 まあ人と組んでではあったけどよ、 どうにかあの頃よりはましになったんだから。」 土方が自分を励ましてくれるのはわかる。 でも、十八のころの土方のように、 自分が世間がわかりかけているとはとても双蘭の頭では思えない。 同じ陰間でも母恋などはいろいろと物を知っているのだが。 それだけに、目の前に用意された仕事をただ言われるままにこなし、 こんな…愛しい男に本心を告げるのもままならないすさんだ立場にいるのだが。 そんな自分のこれからなんて思い描けもしない。

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