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第3話の15
「これからは箱館の奥地も切り開くんだ。
北海道(えぞち)がまるまる一つの国になる。
お前も頑張り次第では大地主になれるかもしれないぞ。」
「大地主…ですか…」
読み書きもままならず、母恋のような芸もない自分が変われるとは、
大地主のような身分に成り上がれるとは双蘭には到底思えなかった。
だが、その言葉は、自分の未来だけでなく、
土方にも未来があることを土方自身に約束されたようで、
双蘭は嬉しかった。
「だから…変な病気になんてならないうちに、
早くここから足を洗え。」
足を洗うとはいっても、双蘭には自身にはびた一文も手に渡らず、
もう居場所もわからない養い親に親方が支払った借金がまだ残っている。
そのことは土方も察したらしく、
「こんな時節でなければな、俺もお前に援助はできたかもしれない。
でもお前は俺と同じ男だ。
女相手みたいに身請けだの旦那だのってつながりは俺はご免だ。
俺は、身分なんざどうでも、頭の切れる男としかつながりは持てねえ。
それはどんなご時世でも関係ねえ。」
双蘭はため息をつきかけ、あわててそれをひっこめようとした。
それはあくまでも、自分が土方の言う「切れる男」ではないことへの失望だったのだが、
すぐに、身請けを断られたのをがっかりしたと思われては嫌だ、
と気づいたからだ。
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