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第3話の17

 …店の朝の合図で、一睡もしなかった双蘭は夜具から抜け出した。 「…もう朝か…」 と言いながら土方も夜具から出て、身支度を始める。 この前のように双蘭の方には背を向けたままだ。 一足早く身じまいを済ませた双蘭が手伝おうとすると、いらない、と冷たい口調で言われた。 仕方なく、双蘭が待っていると、身支度を整えた土方は、双蘭にずっしりと重い祝儀を渡してきた。 「男同士は鶴の味というが…ゆうべはずいぶんといい思いをさせてくれたからな。」 それを聞いて双蘭は打ちのめされた。 何も土方との距離は変わっていなかったというのか…いや、かえって遠くなった。 お奉行さまと、しがない陰間ではどだい無理な話だったのだ。 「ただ言っておくが、昨夜のことは他言無用だ。 俺が色町でどうしたとか、しゃべられても迷惑だ。 店の者にもきつく言っておけ。」 双蘭は言葉もなかった。 「昨夜のことは忘れた。お前も忘れるがよい。」 土方はすっかり陸軍奉行の顔に戻っている。 そして、双蘭には頓着せず、部屋を出て行く。 そこでまた熊八と出くわしたらしく、玄関まで案内させていったようである。 部屋に双蘭を迎えに来てくれたのは吉次だった。 熊八に仔細を吹き込まれていたのかやけに優しく、 「さ、太夫、お見送りはしっかりしやしょうや…」 吉次に抱えられるようにして双蘭は玄関に向かった。

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