47 / 67

第3話の18

すると玄関の手前で熊八に祝儀を渡している土方に追いついた。 熊八は双蘭の姿を見て青ざめたが、 土方は別段顔色も変えず、吉次にも祝儀を渡してくる。 三人は何とも言葉が出なかったが、ようやく熊八が、 「お奉行様、お次はいつごろお越しいただけやしょうか…?」 すると土方はふっと玄関の方に顔を向けながら、 「次か、次はアシがねえよ...」 と、苦笑いをすると、玄関へと踵を返していってしまった。 「そんなことございやせんでしょう…」 と、吉次が冗談めかして追っていく。 確かにそうだ。 お銭(あし)だって馬だってお奉行様にはあるだろうさ… と、思ったすぐに、双蘭は真っ青になって熊八と顔を見合わせた。 「…あし…足…そんな…」 二人は廊下を転がるようにして玄関に向かった... 玄関では親方の愛想笑いが響いていた。 そこにあわてて着いた双蘭たちを叱るように親方は睨み付けたが、 それを刀を受け取りながらそれを見た土方はくすっと笑い、 「床上手のくせにいつもそそっかしいな。」 とみなを笑わせ、そして、世話になった、と、言い置いて、 馬を引いていた小姓の市村目指して店を出ようとした… その時に、双蘭は土方と目が合った。 すると、土方の唇はかすかに何か言いたげに開いた.. が、しかし、すぐに、かすかに微笑みながら目を伏せると、 そのまま店を出て行ってしまった... それが、最後だった。 (この章 終わり)

ともだちにシェアしよう!