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第4話の3
そして三月の末…まだ箱館には雪が残っている頃、本当に戦は始まったのだ。
土方達の幕府方が、宮古湾に停泊していた新政府軍の戦艦に攻撃を仕掛けたのだ。
もちろん、その中では土方が指揮を執っていた。
しかし、、土方の乗っていた戦艦以外の2隻が破壊され、やむなく土方の船は敗走して函館まで帰ってきた。
土方が傷を負ったという噂を、店の者たちも双蘭には黙っていた。
客も来ないので、客から聞かされることもなかったのだ。
が、「これで官軍が来るのが早くなる」「そうすれば店も盛り返す」と信じている親方達は、
官軍が上陸してくるのを今か今かと待ち望んでいた。
そして四月…人の往来の激しい箱館も、こんなに大騒ぎになったことはないと双蘭は思った。
店の中まで、あちこちへと避難する者たちの騒ぎが聞こえてくる。
三月の海戦で幕府方の海軍はほぼ壊滅していたため、
雪解けを待った官軍があっさりと上陸してきて、陸で戦が始まったのだった。
兵士の数も桁が違い、どこの戦でも幕府方は負け続けた。
土方たち一部の隊を除いて。
双蘭達には商売どころか逃げる場もなく、
ただ店の奥で身をひそめて闘いが終わるのを待つばかりだった。
その中で、五月のある日、双蘭は、店の奥の布団部屋に押し込められ、
見張りをつけられた。
まさか…と双蘭は不安にかられたが、確かめるすべもない。
「熊八、何があったんだい。」
「…官軍が、お城を落としたそうで…幕府方は降伏ということで…」
「…お奉行さまは? お奉行様は?」
「お偉い方も、まだ行方などはわからないそうで…」
この時の熊八は嘘はついていなかった。
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