50 / 67

第4話の3

 そして三月の末…まだ箱館には雪が残っている頃、本当に戦は始まったのだ。  土方達の幕府方が、宮古湾に停泊していた新政府軍の戦艦に攻撃を仕掛けたのだ。  もちろん、その中では土方が指揮を執っていた。  しかし、、土方の乗っていた戦艦以外の2隻が破壊され、やむなく土方の船は敗走して函館まで帰ってきた。  土方が傷を負ったという噂を、店の者たちも双蘭には黙っていた。 客も来ないので、客から聞かされることもなかったのだ。 が、「これで官軍が来るのが早くなる」「そうすれば店も盛り返す」と信じている親方達は、 官軍が上陸してくるのを今か今かと待ち望んでいた。  そして四月…人の往来の激しい箱館も、こんなに大騒ぎになったことはないと双蘭は思った。 店の中まで、あちこちへと避難する者たちの騒ぎが聞こえてくる。 三月の海戦で幕府方の海軍はほぼ壊滅していたため、 雪解けを待った官軍があっさりと上陸してきて、陸で戦が始まったのだった。 兵士の数も桁が違い、どこの戦でも幕府方は負け続けた。 土方たち一部の隊を除いて。 双蘭達には商売どころか逃げる場もなく、 ただ店の奥で身をひそめて闘いが終わるのを待つばかりだった。 その中で、五月のある日、双蘭は、店の奥の布団部屋に押し込められ、 見張りをつけられた。 まさか…と双蘭は不安にかられたが、確かめるすべもない。 「熊八、何があったんだい。」 「…官軍が、お城を落としたそうで…幕府方は降伏ということで…」 「…お奉行さまは? お奉行様は?」 「お偉い方も、まだ行方などはわからないそうで…」 この時の熊八は嘘はついていなかった。

ともだちにシェアしよう!