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第4話の4
熊八が、見張りの交代に手代のひとりを置いてそそくさと立ち去り、
手代に引き戸を閉められたところで、
帳場の方でずしん、という音が…まるで誰かが倒れたような…
「今、すごい音がしなかったかえ? 」
引き戸を背にして、自分と向かい合って座っている手代に尋ねたが、
もともと親方に従順で抱え子には冷たい男は、
帳場から持ってきた帳簿らしきものから面倒くさそうに目を上げて、
さあ、と言ったきりだった。
この男はもう知っていたのかもしれない…
双蘭はやっと自分の顔から血が引いているのを感じた。
(…お城…五稜郭が落ちた…?…)
幕府方の城が落ちたということは…お奉行様が…
そうでなかったら、どうして自分がこんなところに押し込められるだろう。
後を追われては困る、ということだったのではないだろうか。
見れば、手代は書き物を見るふりをして、
ずっと自分の様子をうかがっているようだった。
その気になれば、こんな男の一人くらいは倒してこの部屋を飛び出ることもできる。
(…でも…)
そんなはしたないことをして、どうなるのだろう…
それに…
土方を裏切るようで申し訳ないが、双蘭は彼がまだ生きていると思いたかった。
たとえ敗走と言われても、自刃などせず生き残ってほしかった…
函館はそう広くはないが、北海道は広いのだから…
それで、おとなしく、この部屋にいることにした…
「太夫、親方がお呼びです。」
…引き戸が開き、熊八に声をかけられて外に出た時は、もうすっかり夜になっていた。
いつにないことに、熊八と吉次の2人に付き添われ、
ひっそりと静まり返った店の中を、双蘭は、親方の部屋まで連れられていった…
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