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第4話の5

 双蘭が静かに親方の前に座ると、親方は言いづらそうに、 「…双蘭、その…幕府方はお倒れになった。 これからは官軍のご時世、天子さまのご時世だ。 そのつもりで店を盛り立ててくれ。いいか。」 もうそんな話…双蘭がそう思ったのが顔に出たのか、 親方の表情はみるみる怒りに変わり、 「じゃあはっきり言わせてもらうよ。 お前の大事なお奉行さまはもう罪人なんだ。 逆賊なんだ。そりゃ最高の上客ではあったさ。 でもそれは前の話になっちまったんだ。」 だから、頭を切り替えて、官軍のお客様への相手をすすんでつとめるように、 と親方は言う。そして、 「幕府方が客だったことは絶対に言うな。 店がどうとかいう前に、お前たちがしょっぴかれて取り調べになるかもしれん。 牢屋じゃあ生きて帰って来られるかどうか…」 だんだん親方の顔色も悪くなっていく。店から人死にをだしたくないうえに、 抱え子たちを…というか、彼らの稼ぎが無くなるのも、 親たちから買い付けてきた時の金の元が取れぬまま死なれるのも嫌だということなのだろう。 「母恋たちにも言ったが、幕府方の人間には金輪際かかわるな。 万が一文でも来たら必ず番頭さんに相談しろ。」 そこまで聞いて、双蘭は少し明るい気持ちになった。 (…お奉行様が死んだとは、親方は言っていない…)

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