54 / 67

第4話の7

みなのいる、いつもの粗末な控え部屋に戻ると、 なぜか母恋だけ布団をひっかぶって寝床に横たわっており、 輪西が介抱するように横で心配そうに座っていたが、 珍しく双蘭からは目をそらしたまま、何も言ってはくれなかった。 それで双蘭は気づいた。 …きっと…布団部屋で聞いたのは、母恋が倒れた音だったのだろう。 ということは… それに…抱え子の弟分たちの様子もいつもと違って見える。 みんなそれとなく、こっちの様子をうかがっているようで… (…そうか…) みな、隠しているだけなのだろう。 自分が後追いや脱走をしては困るからと、親方に言いくるめられて…  …きっと、お奉行様はもうこの世にはいないのだ… でも、誰にも確かめられない。確かめたくない。 (…俺は、いい…) 一夜とはいえ、ぬくもりも、温かい言葉ももらったのだから。 今にして思えば、その言葉の中にはお覚悟もあったのだろうと思えるし… (それに、私はきっと、ここでは誰よりも早く教えてもらった…)  それより、お奉行さまは...どこで最期を遂げられたのだろう… 市街戦になればみなが迷惑する… そう思って、町のはずれに敵を誘ったのではと双蘭は思った。  望む死に方はできたのだろうか...  いや、できたに違いない。  せめて、そう双蘭は信じたかった。

ともだちにシェアしよう!