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第4話の7
みなのいる、いつもの粗末な控え部屋に戻ると、
なぜか母恋だけ布団をひっかぶって寝床に横たわっており、
輪西が介抱するように横で心配そうに座っていたが、
珍しく双蘭からは目をそらしたまま、何も言ってはくれなかった。
それで双蘭は気づいた。
…きっと…布団部屋で聞いたのは、母恋が倒れた音だったのだろう。
ということは…
それに…抱え子の弟分たちの様子もいつもと違って見える。
みんなそれとなく、こっちの様子をうかがっているようで…
(…そうか…)
みな、隠しているだけなのだろう。
自分が後追いや脱走をしては困るからと、親方に言いくるめられて…
…きっと、お奉行様はもうこの世にはいないのだ…
でも、誰にも確かめられない。確かめたくない。
(…俺は、いい…)
一夜とはいえ、ぬくもりも、温かい言葉ももらったのだから。
今にして思えば、その言葉の中にはお覚悟もあったのだろうと思えるし…
(それに、私はきっと、ここでは誰よりも早く教えてもらった…)
それより、お奉行さまは...どこで最期を遂げられたのだろう…
市街戦になればみなが迷惑する…
そう思って、町のはずれに敵を誘ったのではと双蘭は思った。
望む死に方はできたのだろうか...
いや、できたに違いない。
せめて、そう双蘭は信じたかった。
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