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第4話の9

 あっという間に頭を切り替えた親方は、 官軍に伝手のある、以前からの知り合いに向けて商売の宣伝を始めていたのである。 その中には、もう嘉吉のいない越後屋も入っていた。  まだ六月だった。  客は一人も来ない。女ばかりの松葉楼も同じだという。 どんなご時世でも色に関する商売は強いというが、 みなそれどころではないのだろう。 しかし、双蘭が見てもわかるほど、店は困窮していたし、 親方と番頭の外出はひっきりなしになっていった。  …そんな時、双蘭は偶然、耳にしたのである。  土方の死にざまの噂話を。  めったに近づかない、例の布団部屋の前を、あの時、 どうして通りかかってしまったのだろう。  引き戸を開け放ち、下働きの男たちが布団の綿の具合でも見ていたらしく、 その二人の、ひそやかな声が聞こえてきて… 一…弾が当たって落馬して… 一首をかかれないようにって、お付きの者があわてて陣地まで担ぎ込んだって話だべさ… 一でも、墓の場所もわからねって… 一…人斬り組やってた人だもの…くわばらくわばら… 不意に襲ってきた話だった。 …どう聞いても、 土方のことだとしか思えなかった。 えっ… お奉行さまは不意に命を奪われたのか… どれほどご無念だっただろう… 双蘭の体は、廊下の床に崩れ落ちた。 涙があふれてきて止まらなかった。 「太夫…」 布団部屋から二人が飛び出してきたものの、 どうしたものか戸惑っている気配が伝わってきた…

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