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第4話の10
その後、数日の記憶が、双蘭には、無い。
何日目だったか、どうにか寝床から寝床から這いだし…身ごしらえをするように言われ…
どうしてか熊八ではなく母恋が、綺麗に髪を結ってくれて…
その時の櫛の感触と、久しぶりの母恋のささやきで双蘭は現(うつつ)に返ってきたようだった。
「兄さん、私らは兄さんが頼りです。店はどうでも、抱え子同士、
何としてもやっていきたいってみんな思うてます…」
やっていきたい、とは、土方を想った双蘭と母恋の二人には<生きていきたい>ということだと双蘭は思った。
誰が後追いなんかするものか。
官軍の時世がどれほど結構なものか、最後まで見届けてやる。
母恋もそう思っているだろうが、
言葉にして尋ねれば二人とも二度と立ち上がれなくなるような気がして…
双蘭は尋ねることができなかった…
…相変わらず客は来ず、熊八や吉次まで客引きをやるその後ろに、
双蘭や母恋たちも立って、親方に言われた通り、道行く人々に笑みを見せ続けた。
こんなことは初めてだった。
入口に立ったのは、遊女屋のように抱え子が座ったまま客に姿を見せる場所が、
陰間屋にはなかったからだ。
しかし、誰も登楼しないうちに日が暮れてしまい、
夜に立つのははしたないと、
抱え子たちは中に入れられたが…誰も客は来ない。
次の日はみんなで、これまでのひいき客に文をしたため、
熊八たち金剛や手代たちが届けて歩き…
親方の部屋で母恋と二人で聞かされたのは、
熊八たちが直に聞かされた、親方も困り果てるほどの客のまちまちな答えだった。
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