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第4話の18(最終回)
…果たして土方を失ってから今日までの自分がそれにふさわしい生き方をしてきたかといえば、かなり不安だったが。
すると喜十郎はほっとしたように、
「…そうだな。いくら優男でもな。」
喜十郎がなぜ「優男」という言葉をよく使うのか、少し気になったが、
すると、喜十郎は思い切ったように、
「似てるのよ、お前さんが。
こんなこと言うのもあれだけどな、俺の死んだ末っ子の息子に。」
見ると、喜十郎は必死で涙をこらえている。
「おっ母にそっくりの、女の子みたいな優男でよ、梅吉っていうんだあ。
体の方もおっ母に似て弱くてなあ。
風邪こじらせて、いい医者も呼んだのに治らなくてな…
まだ官軍がどうとかいう前によ。」
喜十郎の涙声が気になったのか、御者の若者はちらっと喜十郎の方を振り返った。
それにはかまわず喜十郎はこぶしで涙をぬぐい、
「あんたの頭はザンギリだけども、顔も細さも年恰好も、
梅吉がふらっと帰ってきた、そんな感じがしたのよ。
これはせめて話がしたいと思って、声かけたんだ。
幸い、といっちゃなんだけども、係累もあんまりいないようだから、
これはおっ母のところに連れてかねばと思ってよ。
で、誘ったんだ。」
ふと双吉の目から知らず涙があふれ、
それは馬そりの風と寒さのためにぴりりと頬を刺すように痛みを覚えさせた。
(いけねえ、しわが出来ちまう・・・)
そう思った次の瞬間、そんな考えは陰間の嗜みだと気づき、
陰間根性がしみついている自分が情けなくなった。
が、すぐに、
(このまましわを作りゃいいじゃねえか・・・)
そう思いついた。目の前の喜十郎のように。
若死にした土方にはできなかったことだ。
そうすればいつか順吉にもまた会えるかもしれない。
双吉は涙をこぶしで拭いながら、でも、痛みをありがたく噛み締めていた。
(完)
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