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第4話
大友を部屋に通すと、不躾な態度を隠す事なく部屋を見渡している。
「……アルコールがいいですか?」
「あるなら飲みたいですね」
弥艶はテーブルにビールと赤ワイン、軽いつまみを出した。大友はソファに腰掛け、キョロキョロと部屋を眺めている。
「あんまりじろじろ見ないでもらえますか?」
「女装する際の服はどこにあるのかな、って」
「そこの部屋が女装部屋です」
奥の扉を指差し弥艶は言った。
「女装部屋……!」
大友は弥艶の言葉に笑えを堪えている。それを横目に弥艶は缶ビールのプルタブを開け、一気に飲み干した。
「何か話しがあるんじゃないんですか?ワイン飲みますか?」
弥艶が聞くと、大友はワイングラスを手にした。ワインが注いでやると大友はそれを一口飲み、ふと動きを止めた。
「どうせなら艶子さんにお酌されたいな」
爽やかな笑みとは程遠い、白々しい笑みを向けられた。
「女装しろって事ですか?」
「強制じゃないですけど」
弥艶的に女装するのは寧ろ嬉しい。だが、この男を前に嬉々として素直に言う通りにするのもなんだか悔しい気がした。
「嫌?」
少し考えると、
「少し時間かかりますけど」
弥艶の口からはそう出ていた。
お店に出る時よりは少しナチュラルなメイクにし、服はやけ気味に丈の短いニット素材のタイトなワンピースを選んだ。ウィッグは面倒で付けなかった。
弥艶は大友の前に立つと、大友はあのギラついた鋭い目を弥艶に向け、射抜くようにじっと見つめている。
(この目で見られると……)
なんだか視姦されているようで、背中がゾクリと疼いた。
「満足ですか?」
「お酌してよ」
大友は空のワイングラスを手に取ると、弥艶に掲げた。わざと大きく息を吐き、大友の隣に腰を下ろすとワインを注いだ。大友は満足そうに弥艶を見つめている。
「で?本題に入ってもらえますか?」
弥艶がそう言うと大友はワイングラスをテーブルに置いた。
「ちょっと捜査に協力してくれませんかね」
「は?」
大友の言葉に弥艶は少し間抜けな声を出してしまった。
「捜査って……例の女装殺人のですか?」
「ええ、まどろっこしい説明苦手なんでハッキリ言うと、囮りになってほしいんです、あなたに」
弥艶はポカンと口を開けたまま、大友を凝視した。
「な、何言ってるんですか⁈なんで俺が!」
動揺して思わず一人称が男になってしまった。
「S市役所の住民課の黒瀬くんが女装が趣味で、女装バーでバイトしてるって言っちゃっていいんですか?」
刑事である大友から信じられない脅しの言葉を聞き絶句した。
「警察が脅すんですか⁈」
「別に言ってもいいよ、警察に。ただ、その経緯を尋ねられて答えられる?女装をネタに脅されてるんです、って?」
「――っ!」
(信じられない、警察が一般市民を脅して更に囮り捜査に使うなんて……!)
いやらしく笑みを浮かべる大友を、弥艶はただただ睨みつける事しかできなかった。
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