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第6話

それから、週末になると大友は一人《Heaven》に現れた。 時には花束や口紅をプレゼントを手にし、それはまるで、お気に入りのホステスに通い詰めている常連客を思わせる。大友らしかぬその行動に弥艶は戸惑いながら、大友にとってこれは仕事なのだ、そう言い聞かせた。そう思わないと、大友に一気に引き込まれそうな危機感を感じていた。 大友はカウンターで静かに酒を飲み、その隣にはいつも弥艶が座った。ポツリポツリと会話を交わし、酒を酌み交わす。 店が終わると囮りになるべく一人、弥艶は店を出る。その後方には大友が目を光らせていた。何もなく弥艶のアパートまで着くと時折大友はアパートに寄り、弥艶にキスと口での奉仕を求めた。決して最後までする事はなかった。 あくまで大友は、女装した自分に欲情しているのだ。大友は自分を女の代わりにして、女にしてもらっている気持ちでいるのだろう。 (まるで風俗だ) そんな関係に弥艶は自嘲する。 弱味を握られた自分に拒否する権利はない。 事件が解決すればこの関係は終わる。それまでの辛抱だ。だが、そう思うとなぜかモヤモヤとした感情が弥艶の中で燻った。 その日、大友は仕事で店に来れないと連絡があった。時たまそういった事はあったのに、最近は来れないと連絡があると会えない事に少々落胆している自分がいた。 弥艶自身この気持ちを持て余していた。本当はこの感情は何か分かっていたが、認めたくなくて弥艶は無理矢理気持ちを押し込めていた。 指名が入り斉藤と名乗った男の隣に座った。年の功は40代半ば。至って普通の冴えない感じのサラリーマンだった。 斉藤がタバコを咥えたのでライターをかざした。その時、斉藤の右手首に見覚えのある傷跡が目に入った。 (こ、こいつ……) こんな時に限って大友は来れない。 どうしようか、考えを巡らす。チャンスを逃したくはない。ここでこの男を捕まえられたら、大友の手柄になるかもしれない、そんな考えも過ぎった。 「ちょっと失礼します」 弥艶はそう男に声をかけ、席を立った。 トイレに入ると大友に電話をした。コールは鳴ったが出る事はなかった。仕方なく弥艶はメッセージを送った。 『絶対に今日店に来て』 あの客が犯人とは限らない。それこそ誤認逮捕などとなったら大友の首が飛ぶ。だからこそ、自分が囮りになってあの客が犯人なのか確認する必要がある。 トイレから戻り、なんとか動揺を隠しつつ弥艶は斎藤との会話を弾ませるとアフターまでこぎつけた。 こっそり携帯を何度か確認したが、大友へのメッセージに既読がつく事はなかった。 (アフターまで約束したのに……大友さんいなくて、このまま行ったら危険だよな……) 自分には合気道の心得もあるし今回もなんとかなる、大友がきっと助けてくれる、そう信じる事にした。

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