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第2話
「リチャード、聞いた?」
突然後ろの席のセーラが声を掛けてきたので、慌てて振り返る。仕事中に余計な事を考えてる場合じゃない。
「何を?」
「例の困ったちゃんよ」
「困ったちゃん?」
「忘れたの? ブルック巡査よ」
「ああ……」
ブルック巡査ことサスキア・ブルックは、半月前に1週間だけの予定でマンチェスター警察から研修でやって来た女性だった。まるで嵐のような人物で、散々AACU(Art & Antiques Crime Unit/美術&アンティーク犯罪捜査課)を掻き回して、伝説を作っていった人物でもあった。
やっと1週間経って研修が終わった時には、普段は温厚で冷静、自分の本音を顔には絶対に出さないチーフのアンディ・スペンサー警部ですら安堵の表情を浮かべた程だった。
ところが2日ほど前、突然マンチェスター警察から依頼があり、ブルック巡査の研修延期を求めてきたのだ。期間は一年。AACUのチームスタッフ全員が、驚愕の表情でそのニュースを聞く羽目になった。
「ブルック巡査がどうしたんだ?」
「今日からなんですってよ。再配属」
「え? 今日から? 随分早いな……心の準備が出来てないんだけど……」
「でしょう? 私も同じ。またあの子の相手しなくちゃいけなくなるんだ、って思ったら何だかもう憂鬱でさ。きっとチームの全員が同じ事考えてると思うけど」
「俺、何だか胃の辺りがキリキリ痛んできたんだけど……」
「リチャードってば繊細ね、って言いたいところだけど、私も同じ。絶対マンチェスター警察でもお荷物扱いだったのよ、あの子。だから体のいい厄介払いされたんじゃないの? AACUに押しつければいいか、って。ほら、うちってさ、METのお荷物部署だし。同じだから丁度いいんじゃないの? なんて具合に」
「セーラ……それ言わないでよ。俺はそのお荷物部署の汚名挽回の為に、日夜努力してるんだからさ」
「そうだったわよね。ごめん、ごめん」
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