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第3話

 セーラが笑いながらそう答えると、ふと入り口の方に目をやって、リチャードに目配せする。 「あら、珍しいお客さんが来てるわよ」  リチャードが入り口を見ると、レイがドアを開けて入ってくるところだった。通常リチャードが彼のギャラリーに赴く事はあっても、レイが直接METの庁舎まで出向いて来ることはない。何か特別の用事でもあるのだろうか? とリチャードは思う。  戸口に立つ彼は、栗色のふんわりとカールした髪、端正な整った顔に榛色の瞳が印象的で、小柄な体にシンプルな白いシャツを纏い、ボトムスはブラックジーンズを履いていた。  レイは一歩部屋の中に入ると、誰かを探すように見回した後、リチャードの姿を認めて表情を緩める。 「ほらほら、ご指名なんだから、早く行ってあげなさいってば」  セーラに急かされて、リチャードは席を立つとレイのところに歩み寄る。 「どうしたんだ? ここまで来るなんて珍しいな」 「うん。今日はスペンサー警部に呼ばれたんだ。何か事件があったみたいで……」 「そうなのか? まだ俺たちは何も聞いてないんだけど……」 「じゃ、きっと起きたばかりの事件なんだと思う」 「もうすでにレイが呼ばれたって事は、それなりの知識が必要な事件ってことか」 「多分ね。スペンサー警部は?」 「警視総監室に行ってる。今日からマンチェスター警察のブルック巡査が、再研修する事になったんだ。レイは聞いてる?」 「いや、何も……初耳。再研修なんて珍しいね。その人って確かリチャードを気に入ってた人だよね?」 「……ああ」  リチャードは苦い顔をする。とにかく彼女の無駄に熱い好意を避けるために、毎回へとへとになっていたのを思い出していた。 「ふうん。そっか」  レイは少し視線を落としてそう言う。何か考えているような顔つきだった。 「レイ、勘違いしないでくれよ。前も言ったけど、彼女が一方的に俺に好意を持ってただけだから」 「分かってるよ、そんな事。慌てて弁解なんてする方が誤解受けるよ?」  焦って小声で言ったリチャードに、レイは冷たく言い返す。  そうなのだ。あのレイの酔っ払いの一件以降、彼ときたら常にこんな調子なのだ。リチャードが愛想を尽かされたのかも、と心配になるのも無理はなかった。

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