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第5話
――こ、これはややこしい事にならないか?
思わずセーラに助けを求める視線を投げかけるものの、彼女は「なあに? 何か面白いことが始まりそうじゃない?」と言う表情でにやにやとこちらを眺めているだけだった。
――くそ、孤立無援かよ。
リチャードは頭を抱えたくなった。側には嫉妬心剥き出しの恋人が、じっとリチャードの顔を見ている。一体何と言って彼の気持ちを安心させたらいい?
「あの……レイ、何か怒ってる?」
情けない、と自分でも分かっていたが、リチャードにはそれくらいしか言える言葉が思い浮かばない。周りになるべく聞こえないように小声で言うものの、他のスタッフが聞いていたらどうしよう、という気持ちもあって、あまり変なことは言えない。
「怒ってないよ。何で?」
案の定レイの返事は素っ気ない。
「いや、その……」
「怒るような事、リチャード何かしたって自覚ある訳?」
「な、ないよ。ある訳ないだろ?」
あまりこそこそ話を続けているのも怪しまれる。リチャードは適度なところで切り上げなければ、と内心焦っていた。
「あのさ、職場であんまりこういう話題しない方がいいんじゃないの?」
レイにずばり、と本当の事を言われてリチャードは黙り込む。まさにその通りなのだ。ここですべき話題ではないのだ。だが、リチャードはせずにはいられなかった。職務怠慢だ、とまるでレイに叱られているような気分になって、リチャードは落ち込む。
そんな表情を見て、流石のレイも気になったのか「今日、仕事終わったらパブ行く?」と付け加える。
「ああ、そうだね」
浮かない顔のリチャードはそう言ってレイを見つめる。レイはリチャードから視線を外して俯いた。
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