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第8話

「人の噂話って言うのは、時としてまことしやかに語られるようになるものだよ。簡単に言えば都市伝説みたいなものかな」 「なるほどな。都市伝説というのは分かりやすい例えのような気がする」  リチャードが納得した顔で、レイを見て頷いたのを、サーシャは面白くなさそうに見つめていた。  そして苛ついた口調でレイに向かって口を開く。 「ちょっと、あなたさっきから我が物顔で演説してくれちゃってるけど、一体誰なの? AACUのチームメンバーじゃないわよね?」 「ああ、僕? ここの関係者」  レイは冷たい声でそう素っ気なく答える。 「はあ? 関係者って何よ。あなた警察官なの?」 「違うよ」  二人のやり取りをはらはらしながら見守っていたリチャードが、誰も口を挟まないので仕方なく説明に割り込む。 ――他のメンバーはともかく、スペンサー警部まで傍観者決め込むってどういう事だよ…… 「ブルック巡査、彼はAACU設立当時からの外部コンサルタントのレイモンド・ハーグリーブスさんだ。我々に足りないアート関連の知識をお借りしているんだ。失礼がないようにしてくれ」 「でも、ジョーンズ警部補!」  腹の虫が収まらない、と言った様子でサーシャは言葉を続けようとする。 「彼はハーグリーブス警視総監の甥御さんだ。これ以上の説明は必要かい?」  総監の甥、と聞いて一瞬サーシャが怯む。しかし彼女はこれしきでめげるような女性ではなかった。 「ふうん、虎の威を借る狐ってところな訳ね」 「なにそれ、僕の事狐呼ばわりするんだ」 「何か企んでそうな顔してんじゃないの」 「あんたの方が女狐っぽいと思うけど」 「あー! もう二人共、ここでこれ以上喧嘩しないでくれ」  リチャードが呆れた顔で止めに入ると、ようやく二人は口を噤んだ。

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