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第11話

「この写真は博物館の関係者のものだ。右から、館長のジョージ・ウィルソン博士、76歳、その隣は妻のアビゲイル・ウィルソン、38歳、アビゲイルの弟のジミー・ロイド、36歳、そして学芸員のエリック・エバンス、26歳だ」 「随分若い奥さんなんですね。年齢が半分ですよ?」  パトリックが驚いて声を上げる。  写真の中のアビゲイルは、派手な化粧をしていて、明らかにブリーチしていると思われるプラチナブロンドの髪、そしてキツい目元は整形しているようだった。その隣に貼ってある地味な老人の妻と言われても、すぐには信じられなかった。 「お金目当てに決まってるじゃないの」  サーシャが口を開く。 「だって、ロンドンの一等地に博物館持ってるのよ? それだけでもすごい資産よね?」 「確かに。博物館は私設博物館なんですよね? だとすれば、建物は館長の所有物という認識でいいのでしょうか?」  リチャードが確認の為にスペンサーに尋ねる。 「ああ。博物館の建物は博士の個人資産の筈だ。ブルック巡査の言うように、この写真だけ見ると、資産目当てで結婚したと思われても仕方ないかもしれないな。とりあえず詳しい事は本人たちに話を訊いてみた方がいいだろう。像の盗難当時の状況等と併せて、現地で話を聞いて来て欲しい。リチャード、レイモンドくんとブルック巡査を連れて、博物館まで行ってくれないか?」 「え?」  思わずリチャードは驚いて聞き返してしまう。 「ん? なんだ、リチャード何か異論があるのか?」 「あ、いえ。何でもありません。了解しました」 ――よりによって、何で俺がレイとブルック巡査を一緒に……  リチャードの背筋に冷たい嫌な汗が流れる。 「リチャード、行こう」  隣に座っていたレイが立ち上がる。負けじとサーシャも立ち上がり「同行させて頂きます」とリチャードに向かって張り切って言う。 「リチャード、すまないな。ブルック巡査には実際の現場を体験させないといけないんだ。レイモンドくんはこう言った事には慣れているし、知識豊富だから事件の早期解決の為に彼を現地で捜査に参加させた方がいいだろう?」 「ええ、まあ」  スペンサーが申し訳なさそうに、リチャードの耳元で言い訳するのを頷いて聞く。  だが今のリチャードは何を言われても、これから先どうやってこの二人を上手く扱うか、それだけしか頭にはなかった。 ――下手するとまた喧嘩しだすしな。  リチャードはデスクの引き出しから、貸与車輌のキーを取り出すと、二人を促して地下駐車場へ向かった。

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