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第12話
リフトを使って地下まで下りる間も、リチャードを挟んで二人はお互いを牽制し合っていた。挟まれた本人は居たたまれず、なるべく両人とは視線を合わせないようにして「早くリフト着いてくれ」とそればかりを願っていた。
地下に到着し、リフトのドアが開いた途端にレイはさっさと一人で歩いて行ってしまう。サーシャはそれを見てチャンスとばかり、リチャードの側について歩く。
「ジョーンズ警部補、現場ではどのような捜査が行われるんですか? 手順などを教えて頂けるんでしょうか?」
「あ、ああ、そうだね。スペンサー警部から、きみには実地体験をして貰うように言われてる。まだ慣れない部分も多いだろうから、分からない事があったらすぐに聞いてくれ」
「分かりました。よろしくお願いします」
サーシャは満足気な顔で言う。彼女は邪魔なレイが一人ですたすたと先に言ってしまったので、ここぞとばかりに出し抜いた気になっていた。
「リチャード、ドアのキー開けて」
少し離れたところから、レイの声がする。二人が見ると、駐車場の一番奥まった所に停めてあったリチャードの貸与車輌の前にレイがいた。
電子キーなので離れた場所からも解錠可能だ。リチャードはポケットからキーを出すと、レイに言われたとおりにドアを開けてやる。
レイはドアが開くと、さっさと助手席に乗り込んだ。
「あ! ずるい!」
それを見てサーシャが叫ぶ。
――レイ……大人げない事するな……
リチャードは何故レイが一人でさっさと歩いて行ったのかを理解して、溜息をついた。彼はリチャードが乗っている車も、駐車場所もすでに知っているので、サーシャを出し抜いたのだ。
「ちょっとぉ、あなたはコンサルタントで警察官じゃないんだから、後部座席に乗るべきじゃないの?」
サーシャは運転手側の席のドアを開けて、レイに降りるように促す。
「誰がそんなルール決めた訳? リチャードの車の助手席は僕の指定席だから」
レイはそう言って、そっぽを向いてしまった。
「ブルック巡査、悪いけど後部座席に乗ってくれるかな?」
リチャードがそう言うと、サーシャはむくれて「はぁい」と言って後部座席に乗り込んだ。
「ジョーンズ警部補」
「ん? 何かな?」
「警部補って、ちょっとこのコンサルタントに甘くありませんか?」
サーシャは不満をぶつけるように、リチャードに文句を言う。
――甘く……って、隣に座ってるコンサルタントは恋人なんだから当然だろう……
リチャードは思わず答えに詰まって、横に座っているレイに視線を向ける。レイはリチャードの視線を感じたらしく、顔を少しこちらに向けると「何?」と小声で言う。
「俺は別に彼を特別扱いしてる訳じゃないよ。もしそう感じたのなら、すまない」
――いや、本当は思い切り彼を特別扱いしてるけどね……
「いえっ、そんなジョーンズ警部補に謝って頂くような事じゃありませんから!」
自己矛盾を抱えたまま、リチャードは適当に答えを濁して、この話題を切り上げる。そして車を発進させると、ウィルソン・エジプト博物館へ向かった。
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