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第13話

 ウィルソン・エジプト博物館は、ロンドン市内中心部の賑やかな地区に位置していた。周囲には大英博物館や劇場などがあり、多くの観光客が訪れている。だが、この博物館があるのは、同じ地区でありながら、どこか寂れたような雰囲気を感じる場所だった。  リチャードは車を路肩に停めると、周囲に駐車禁止の標識がないことを確認する。ロンドン市内は駐車禁止の場所が多いので、下手をすると警察車輌であっても駐車違反の切符を切られる可能性がある。幸い車を停めた辺りは駐車可能区域だった。  博物館は建ち並ぶタウンハウスの中の一棟で、入り口のゲートに小さく「ウィルソン・エジプト博物館」とシルバーカラーのプレートが掛けられているだけで、特に目立った特徴がなかった。これでは博物館なのかどうか、周りの建物との区別が遠目ではつかない。博物館の集客が落ちている、と言うのも頷けた。  リチャードはゲートを開けると、数段ある階段を上ってドアの前に立ち、ドアノッカーを使って中の人間に来訪を告げる。  数回叩くと、ドアが開いて中から若い眼鏡を掛けた男性が顔を出す。 「あの……どちら様でしょうか? 今日は閉館日なんですが」 「METのAACUから来ました。ジョーンズ警部補です」 「ああ、警察の方でしたか」  ホッとした顔をして、眼鏡の男性は慌ててドアを開ける。 「早く入って下さい。あまり周囲に知られたくないので」  三人が館内に入ると、若い男性がリチャードに手を差し出し挨拶した。 「ここの学芸員のエリック・エバンスです。他の警察の方達には裏口から入って貰ったんですよ」 「そうでしたか、それは失礼しました。こちらはブルック巡査、それとコンサルタントのハーグリーブスさんです。捜査に協力して貰っていますので、我々に話すのと同じ内容を彼にも話して下さい」 「分かりました」  リチャードはエントランスホールをぐるりと見渡して観察した。お世辞にも金を掛けているとは言えない廃れ具合だ。どこか埃っぽくて、掃除も行き届いていない。入って正面には小さなマホガニー製のデスクが置かれて、ロンドン市内のアトラクションのパンフレットが並べられている。その隣には、手製のような素人臭い館内案内のパンフレットが置かれて、1ポンドで売られていた。

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