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第15話

彼女は高級そうな真っ赤の露出度の高いドレスを着ていて、一体これからどちらにお出かけですか? と思わずリチャードは訊きたくなってしまう。 ――まだ昼間だって言うのに、パーティ仕様かよ。  あまりにも対照的な二人に驚いたのは、リチャードだけではなかった。隣でサーシャも目を丸くして凝視している。そしてこっそりリチャードに「本当にこの人達夫婦ですか?」と尋ねてきた。 「……ブルック巡査、聞こえるよ」  リチャードはやんわりと彼女を窘める。話を聞く前に気を悪くされたら困る。 「METのAACUから来たジョーンズ警部補です。彼女はブルック巡査、それとこちらはコンサルタントをして貰っているハーグリーブスさんです。ウィルソン館長にエジプト像が盗難に遭った際のお話を伺いたいのですが」 「わざわざ足を運んでもらってすみません。こちらにお座り下さい」  ウィルソンは自分たちの対面に置かれているソファを手で指し示す。 「では、失礼します」  リチャードがソファの端に座ろうとすると、レイが「真ん中行って」とすかさずリチャードを肩で乱暴に押す。 「え?」 「端っこ座ったら、どっちが隣に座るかでまた揉めるだろ?」  苛立った様子のレイが、小声でリチャードにそう言う。 ――なるほど、レイなりに気を遣ってるのか……  確かにリチャードが端に座ると、その隣の席を巡ってまた二人が喧嘩になるのは、目に見えて分かっていた。リチャードはレイに言われた通り真ん中に座る。右隣にサーシャが、左隣にはレイが座った。 ――何だか、落ち着かないな。  両隣に自分を巡って争う二人に座られて、リチャードは気まずい気分になる。 ――仕事に集中しろ。  リチャードはジャケットからメモとペンを出すと「像が盗難に遭った時の様子を、お聞かせ願えますか?」と尋ねる。 「はい。像が無くなった、と気付いたのは今朝です。気付いたのはエリックなので、彼から話を聞いて貰う方がいいかと……」 ウィルソンはかすれた声で頼りなさげにそう言う。どこかおどおどとして、自信の無い態度。視線をあちこちに彷徨わせて、どこを見て話しをしているのかよく分からない。よくこれで館長が務まるものだ、とリチャードは密かに思う。 「それではエリックさん、代わりにお話願えますか?」 「ええ、勿論です」  館長の後ろに立っていたエリックが答える。彼は若いがしっかりとして頼もしい青年に見えた。館長もそんな彼を頼りにしているらしい。 「像が盗難に遭ったのに気付いたのは今朝のことです。ガラスの展示ケースの中に置かれていた話題のエジプト像がなくなっていたんです」 「像はずっと同じ場所に展示されていたんですか?」 「二週間前に展示物の入れ替えをした際、ずっと倉庫に眠っていたあの像を見つけて、それで展示を始めました。それ以来ずっとそこに……」 「いや、違うだろうエリック。三日前に、像を解析に出したじゃないか」  黙って聞いていたウィルソン博士が口を挟む。 「あ、ああ、そうでした。忘れていました……」

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